【札幌カフェ】ひらがなのもりひこ…「原点」を重んじ、尊び、たどり着いた森彦の「答え」
今の若い子がどうかはわからないが、ギリギリ平成生まれの僕ら世代にとって人生の初期に触れる「スイーツ」といえば、ほぼ間違いなく「ホットケーキ」であった。
休みの日の朝ごはんやおやつの時間に母親が焼いてくれるそれは、飛び上がるほどの喜びとはまた違った性質の、心の底からじんわりとワクワクさせてくれる感覚があった。
両手にナイフとフォークを持ち、慣れない手付きで切り出しながら食べる瞬間はもちろん、1枚1枚が焼き上がっていく様子さえ、その体験に強く焼き付いている。
身近でありながら、今でもどこか特別な感じ。
ホットケーキは生きる上で大事な、色々な感情を教えてくれた「原点」とも言える存在なのかもしれない。
札幌の中心・大通で、森彦がホットケーキを今このタイミングで仕掛ける”意味”
未知なる存在の予期せぬ襲来で、良くも悪くも世の中のルールがガラリと変わってしまった2020年。
後世に渡って語り継がれようというこの象徴的な年に、森彦は「原点」を模索しようとした。
いや、もしかするとその流れは昨年から始まっていたのかもしれない。
1909年に建てられた倉庫を改装したお店を旭川にオープンしたり、森彦の”同級生”である東京・日暮里の「HAGISO」とコラボイベントを開催したり、来たるべきその時に向けて足場はしっかりと固められていた。
札幌の中心地、大通。
その中でも象徴的なランドマークといえばさっぽろテレビ塔だが、そのすぐ横にある商業施設「ル・トロワ」の地下2階、「キレイのランドマーク」を掲げるその建物の中に新たに誕生したのが「ひらがなのもりひこ」である。
お店全体をぐるっと囲む白い壁と、そこに満月のようにぼうっと浮かぶまん丸の照明。そして、頭文字の「も」。
以前、この場所に入っていたJB ESPRESSO MORIHICO.はさながら「街のコーヒースタンド」といった佇まいだったが、そのイメージを覆す外見に、期待が高まる。
茶色と緑の暖簾をくぐって店内に入ると、白とぬくもりを感じる木目を基調とした空間に、得も言われぬ馴染みや落ち着きを感じる。
MORIHICO.代表の市川さんがSNSに書かれていた、1行の言葉が脳裏に蘇った。
「そう、僕たちは日本人だったんだね。」
北海道という土地は、約150年前に開拓者たちによって切り拓かれた土地。
しかし、そのさらに前から流れる日本人としての感性は、今も脈々と受け継がれている。
オーソドックスだけど新しい、もりひこの和風ホットケーキ
店内で食べることが出来るのは、「うすもち」と名付けられた薄焼きのホットケーキ。
合わせるトッピングは、「発酵バター」や「謹製ホイップ」などの王道から、「北海道ゆであずき」などの和風の甘味、また「白あんラムレーズン」「みたらし」などのちょっと変わり種もラインナップされていて、選ぶ時間も楽しい体験の一つになる。
一緒に楽しみたいコーヒーには、これまで円山の本店限定だったブレンド「森の雫」が登場。
四半世紀以上、札幌の喫茶・カフェの世界で独自の進化を遂げてきた森彦の「原点」とも言える味が、この場所でも味わうことが出来る。
登場したホットケーキには、可愛らしい「も」の焼印。
10種類の中から選んだ5種類のトッピングも、何かの儀式で使われそうな器に盛り付けられていて、統一されたメッセージを感じる。
ちなみに、一番奥にある”6つ目”のうつわに載っているのは、口直しの漬物。細かな心遣いが嬉しい。
サイフォン式で抽出されるコーヒーを佳きタイミングでカップに移し、楽しみな時間を始める。
トッピングを贅沢に飾り付けたホットケーキにナイフを入れ、フォークで口に運び、ひとくち食べた瞬間に感じた食感は、これまでに感じたことのないものであった。
「シュワッ」と口の中で優しく溶けていく、初めての口触り。
口溶けの良いパンケーキといえば、リコッタチーズなどを使った「トロッ」とした食感のものがあるが、それとは一線を画している。
あくまでベーシックな材料で作られた「ホットケーキ」ではあるものの、経験したことのない感覚。
「原点」を大切にしつつ、今の時代に即した新しさも織り交ぜる。
今、このタイミングでホットケーキを打ち出した、その理由が何となくわかった気がした。
世の中は、常に移ろう。
これまでの常識が、明日は非常識になっている。そんな時代。
しかし、そんな状況下においても”変わらないもの”というのは、確かにある。
コーヒーを楽しむ時間や、甘いものに頬をゆるめる瞬間もそうだ。
昔から幾度となく繰り返され、人々を癒やしてきたこの時間は全く変わらないし、これからも変わらないで欲しい。
いや、きっと変わらないはずだ。
そんなメッセージを、1枚1枚丁寧に焼き上げられるホットケーキを見ながら感じた。
……こんなことを思うなんて、ちょっとはおとなになったってことかな。
【Shop info】
◇住所:札幌市中央区大通西1丁目13 ル・トロワB2F
◇最寄り駅:札幌市営地下鉄各線 大通駅
◇駐車場:なし
◇営業時間:イートイン 11:00 – 21:00 / テイクアウト 10:00 – 20:00
◇HP:ひらがなのもりひこ – MORIHICO.
◇Instagram:@hiragananomorihico
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