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森彦 カフェがなくなったら 市川草介

【書評】カフェという空間がもっと好きになる本―市川草介『カフェがなくなったら…』

 

札幌の街に、「モリヒコ」というカフェが存在しなかったら?

 

読み終えた本書をパタリと閉じながら、ふとそんなことを考えてみた。

 

森彦

 

 

カフェなんか、この世になくても究極的には困らない。

だけれども、この世の中からカフェがなくなってしまったら、

私たちはどの場所で夢想し、愛を語り、希望を見出したら良いんだ。

 

「カフェが絶えず持ち続ける存在意義」について、帯と巻末でそっと、反語的に語られているこの一節は、創業から今に至るまでの「モリヒコ」が凝縮された言葉だと思う。

 

じゃあ、”この”「モリヒコ」がなかったとしたら?

札幌の人々は、「カフェ」という空間に希望を見いだせずに、そこにまつわるサムシングについての愛を語ることも出来ずに……

 

もしかしたら、今のようなカフェ文化は、この街に形成されていなかったかもしれない。

創業者にして、現・CEOの市川草介さんがブレずに、信じて続けてきたことは今、とてつもなく偉大な存在になっている。

 

森彦

 

本書のハイライトの1つは、それぞれの店舗が創られるまでのエピソードが綴られた章だ。

 

円山の住宅街の路地裏に”手作り”した「森彦」、次いで生まれた「アトリエモリヒコ」「Plantation」という全く違う形の空間、そして最新の「MORIHICO.藝術劇場」。

 

plantation 森彦

 

現在に至るまで進化を続ける「モリヒコ」の立ち位置の変遷と、当時の市川さんが込めたメッセージ・想いを読み進めるごとに、各店舗のこだわりが次々と自分の中で腑に落ちていく感覚を得る。

そして、一つひとつのヒストリーを読むごとに、自分が実際に訪れたときの記憶が鮮明に蘇ることに驚く。

 

morihico 美しが丘

 

「雰囲気は覚えているが、味は覚えていない」

 

「空間」に関する別の章で何気なく書かれているこの一言が立証される形となるが(いや、美味しいガトーフロマージュや雪のおしるこなどの味はきちんと覚えている)、それは、多店舗展開を続ける中でも一貫して「同じものは作らない」というフィロソフィーを守り続けてきた結果なのだろうなと感じた。

 

全部同じように作れば、経営的には効率的で良い。

でも、敢えてそれをせず、非合理を選択する。

想いを込めて、オンリーワンにこだわる。

 

「モリヒコ」が成功したのは、大きな規模で店舗展開をしているからではない。一つひとつの小さな部分に、こだわって磨き上げてきたからだ。

ブレずに、信じて続けてきて、その結果「多くの人に愛される」という最高の成果を上げた「モリヒコ」が、札幌のカフェシーンに見せた大きな”希望”はこれだと思う。

 

 

本書に込められた市川さんのメッセージの一つに「コーヒー文化の醸成」があると感じた。

 

これはコーヒーを焙煎する人、淹れる人だけが学び、極めればいいというものではない。

提供されて飲む僕たちも、より良いコーヒーを知り、より良いコーヒーを求めるようになり、より良いコーヒーに適切な対価を支払って飲むようになる…というサイクルが出来上がるのが理想だと思う。

 

仮に、僕たちにコーヒーの知識が無くても、淹れることが出来なくても、コーヒーの魅力について情熱的に語ることが出来なかったとしても……

コーヒー文化醸成のために頑張っている”仲間”たちを、”発信者”という立場でサポートすることなら出来るはず。

お店に足を運んで、美味しいコーヒーを飲んで、それをSNSやブログなどで発信する。

それがきっと、長い目で見れば札幌のカフェのためになる。

 

本書を読んで、最後に「カフェ好き」としてのミッションが見えた気がした。

 

JB ESPRESSO MORIHICO.サイクルロード

 

「この札幌という街が、カフェ文化の根付く、素敵な街であり続けるように」

 

A Day in the Cafeで僕が発信し続けているこの言葉に共感できる人は、ぜひ本書を読んで欲しい。

きっと、今以上にカフェに訪れるのが楽しくなり、カフェという空間が愛おしくなるから。

 

 

【関連リンク】

北海道限定「森彦の珈琲」のサンプリングイベント参加レポート

 

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